青空に吸い込まれてゆく透きとおった歌声。
誰かが言った。「音楽は、人に作用する。」
陳列された数多くの音楽のなかに、一枚。
自信満々に頬を紅潮させながら、どこかそわそわしているCDがある。
あのですね、はじめてなんです。
でも、大事に、とても大事に心を込めて歌いました。
みんなも一生懸命演奏してくれたんです。
大きな声では、とても恥ずかしくて言えませんが、自信があるんです!
ちょっと聞いてくださいませんか?
そう語りかけてくるようなCDと目が合ってしまった。
かばんの中でも、そのCDは饒舌に、けど遠慮がちに語りかけてくる。
ぼくは、真新しいCDを包むビニールに、軽く爪で傷つける。
そこを起点としてビニールを破き、臆病な自信家とご対面した。
ありがとう。
きちんと聞いててくださいね。
拡がりゆく音。
満たされてゆく心。
この瞬間。
胸の鼓動早めながら聞きいる。
音に耳傾けながら、他の事するなんてままならない。
なぜだろう胸苦しくなるようなこの感覚。
スピーカーに、そっと手をやり伝わる振動、音の響き。
音楽が醸し出すのは、紅茶の香りに包まれたどこか懐かしい風景。
そうだ。
雨雲の隙間から、澄み切った青空が申し訳なさそうに顔を出した日のこと。
憂鬱な雨を吸い込んだかのようで、とても瑞々しく。
元気付けられたことを覚えている。
その何気ない光景。
けれども、忘れることない空の青。
あの日の青空に吸い込まれてゆくような透きとおった歌声。
ぼくに注がれてゆくプラスイメージ、前向きな力。
これから踏み出すぼくの一歩。
昨日と較べて遥かに大きな歩幅となるんだ。
単純な男の宣戦布告。
道端の小石なんかにつまづいてちゃいけない。
蹴り返す力が今のぼくにはある。
きみの傍にも、このCDが隠れている。
ぼくを、きみを、ご機嫌にさせる音楽の作用。
(「コトリ木」待望のファーストアルバム 「イイコト」)